さほど昔ではありませんが、アメリカ政治について日本人と議論する時、「共和党政権が当選すると日本は有利だ」とよく言われました。例えば90年代の共和党はビジネスや自由貿易を重視する政策を掲げ、輸出大国の日本が恩恵を受けると思った人が多かったのです。それだけではなく、当時の共和党の政治家は強い米軍の役割も信じていました。つまり、国内の強いアメリカなら海外の強い米軍が必要である、という信念がありました。これも日本から見ればありがたい話でした。
結果としてアジアにおける米軍のプレゼンスを強化し、地域全体の安定に貢献する時期もあったと言えるでしょう。レーガン大統領やブッシュ大統領(父と息子両方)など、従来の共和党政権は、例えば日本のような友好国との経済的な摩擦があっても、安全保障の協力関係が損なわれることがあってはいけない、という方針がありました。要するに、海外情勢に関心を持ち、同盟国との関係を重視する政党でした。主流の共和党の政治家は「活発的な経済」と「海外での強いアメリカ」はセットとして考えていました。これは戦後時代の常識でした。
しかし、2016年のトランプ政権発足から上記の常識がひっくり返されました。最近、アメリカ政治について多くの日本人と話すと、「共和党はいかに変化したか」ということに気づいていないと感じます。その変化を理解しない限り、なぜアメリカの政治に不思議な要素が多いかということが理解できないはずです。
まず、昔の共和党と現在の共和党の違いについておさらいしましょう。
| かつての共和党支持者 | 現在の共和党支持者 |
| 共和党=愛国者の政党 | 共和党=トランプ氏の政党 |
| 大企業や大富豪の活動を好む | 大企業や大富豪の活動を嫌う |
| 自由貿易を支持する | 自由貿易が米社会に悪をもたらしたと思う |
| 米軍の海外活動を望む | 海外情勢に無関心 |
| 米国の機関やメディアを信じる | 米国の機関やメディアに嫌疑的 |
| 宗教の信者はいるが、大半は経済を重視する | 宗教の価値観問題を重視する |
| 大半は保守的な白人 | 大半は白人だが、マイノリティ男性も急増 |
| 移民に厳しかったが、低賃金労働を好む | 移民に厳しい |
| 民主党や左派とカルチャー戦争をしても良い | カルチャー戦争が優先 |
| 愛国心=国を絶対に守らなければならない | 場合によって武装した有権者が対抗しなければならない |
| 米軍を尊敬し大切にする | 米軍を尊敬するが、同じイデオロギーであることが必須 |
| 連邦政府の所得税などを減らしたい | 連邦政府の所得税などを減らしたい |
ご覧の通り、昔の共和党員と現在の共和党員は共通点よりも相違点のほうが多いです。一つずつで整理しましょう。
共和党=トランプ前大統領の政党
昔の共和党には、愛国心の強い人が集まりがちでした。多くの保守的なアメリカ人が誇りに思ったのは、ヨーロッパと違って貴族制がない国である、ということでした。

キリスト教の教えに沿った形で国を愛する人なら誰でもウェルカムでした。しかし、今はポピュリズムの時代です。トランプ氏の周りに個人崇拝のような雰囲気ができてしまい、共和党有権者の少なくと5割はトランプ氏のことを支持しています。
例えばトランプ氏のこと気に入らない共和党上院議員がいても、公の場でトランプ氏を批判することはありません。政治的な自爆行為であるからです。
大企業や大富豪の活動を嫌う
実はこれは非常に複雑です。嫌う度合いは有権者の所得などによって異なります。一般論として言えるのは、低学歴の白人層から見れば、金持ちや大手企業の社長などは国際的なエリートであり、「敵」として意識する人もいます。特に中西部や南部、さびついた工業地帯、いわゆるラストベルトと呼ばれる地域や、キリスト教が盛んな地域の白人有権者には「反エリート」の傾向が強いなわけです。
自由貿易が米社会に悪をもたらしたと思う
これも反エリートの一部ですが、自由貿易や国際競争によって多くのアメリカの工場が海外に移転しました。よって、多くのブルーカラーの人が就職を失いました。「自由貿易のお陰で色々な利点がある」と経済学者に言われても多くのトランプ支持者は「エリートには利点があるかもしれない。けれど、我々一般人は苦しむだけだ」と反論します。トランプ氏が揚げる「反エリート主義」が響く理由はここにあります。
海外情勢に無関心
アメリカは貧富の格差やホームレスの急増など色々な社会問題で苦しんでいるところです。多くのトランプ支持者は「外交」や「同盟」などに無関心です。「アメリカ第一」という発想で、アメリカの予算をアメリカ人のために使うべきだと思う人が多いです。
米国の機関やメディアに嫌疑的
昔の共和党の人は主流のメディアから情報を得ていました。しかし、ネット時代の今は偽りの情報が多いSNSなどで得る人が大半です。それに、「マスコミはエリートによって制御されている」と思う人が多くて、「あれは嘘ばかり」と否定しがちです。これもトランプ支持者のエリートに対する憎しみの現れです。
宗教の価値観問題を重視する
キリスト教の白人が多い田舎に行くと教会の多さで驚くこともあります。福音教会は非常に組織的で、レーガン大統領時代から有権者を動員させる能力を誇示しています。有権者は「経済が一番心配だ」とか言うのに実は多くの政治家は宗教のアジェンダに力を入れています。女性に人工中絶の権利を与える判決(Roe対Wade)が最近覆されたことは象徴的です。
大半は白人だが、マイノリティ男性も急増
トランプ氏の発言や支持層を見ると「白人至上主義」というイメージが強いです。間違っていません。しかし、だからといって支持者は低学歴のブルーカラー白人ばかり、というわけでもありません。実はマイノリティの男性が増えています。これは不思議に思う人が少なくありませんが、男女役割の変更を恐れる男性が多いという解釈もあります。つまり、ロクな仕事につかないかつ「現在の男らしさって何?」と悩む多くの男性は、下品や差別的な発言があっても「強いトランプ氏」の魅力を感じます。これを見て警鐘を鳴らしている民主党の人が多いです。
移民に厳しい
日本では「アメリカ=移民の国」というイメージがあるので「移民に厳しい」ということはピンとこないかもしれません。例えばフロリダ州にはキューバから逃げた祖先を持っているキューバ系のアメリカ人が多いです。この人たちは実は中米や南米から入国しようとする移民や亡命を求める人と同じラティノです。なのに、厳しいです。「労働が奪われるから入国させるな」とか言う人も多いです。
カルチャー戦争が優先
若い世代の民主党には「Woke、ウォーク」という言葉があります。「目覚めた」という直訳になりますが、本当の意味は「性差別や人種差別について意識が高い」です。トランプ支持者はウォークの人が嫌いです。そこで、民主党と共和党の間に「culture wars、価値観についての戦い」が起きています。例えばトランズジェンダーのことが挙げられます。

民主党の人は「生まれた時は男性だったとしても女性の意識が強い人ならその人に女性用トイレを使わせばいい」とか言います。トランプ氏をはじめ共和党の多くの人は強く反対します。
こういったculture warsは人口のわずかの部分にしか関係ないですが、アメリカ政治の分断の大きな原因です。政治家の候補については「ま、経歴がなくてもculture warsで戦ってくれる人なら当選しよう」とかいう人も増えています。
場合によって武装した有権者が対抗しないと
昔の共和党の支持者は海外の敵から国を守る気分が絶対的でした。しかし、「政府はエリートのためのものだ」と信じている今の共和党は、「銃を持って連邦政府に対抗してもいい場合がある。むしろ、対抗する義務がある」など過激的な発言する人が急増です。これは「銃器所持」の憲法修正第二条と深く関わります。ちなみにこの傾向は2021年1月6日の米議事堂襲撃にも見られました。
米軍を尊敬するが、同じイデオロギーであることが必須
昔と今の共和党の共通点として米軍や軍人への尊敬ということがあります。例えば国内便に乗る時、現役軍人がファーストクラスと同じタイミングに搭乗しても良いという習慣があります。しかし、今の共和党はイデオロギーが一致することが前提です。例えば最近、人工中絶の治療を提供する軍の病院に対して共和党の一部から猛反発が見られました。アメリカの安全保障にも影響が出ています。
連邦政府の所得税などを減らしたい
それに、小さな連邦政府を好むということで、所得税を減らしたいことも一緒です。「課税は泥棒行為だ」とか共和党の人は普通に言います。昔の共和党と同様ですが、今はもっと過激的な体勢になっています。
以上、現在の共和党のポイントをリストアップしましたが、今度の「アメリカの政治:こんにちの共和党(Part 2)」には、なぜこうなったのか、また大統領選への影響はどうなるか、について議論したいと思います。
– – –
Photo 1: 共和党の象徴である「象」。
Photo 2: 2018年の当時のトランプ大統領が政治集会で演説する (Politico)。
Photo 3: アメリカでは分断が深まる (ABC News)。
筆者は井口浩輔さんから貴重なフィードバックをいただき、感謝しています。なお、このブログの作成にあたってAIや機械翻訳など一切利用していません。



6 responses to “アメリカの政治:こんにちの共和党(1/2)”
[…] 前回のPart 1には、現在の共和党が変化してきたことについて説明しました。アメリカの保守派は昔と違って、より内向的になっているという話もありました。それから、現在の共和党の一つの大きな特徴は「反エリート」である、ということです。ブルーカラーのアメリカ人は不安感を抱えています。いい仕事が少なくなってきて、男女の役割も不明瞭化し、何よりも次の世代が前の世代より貧しくなる、という現状です。 […]
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[…] アメリカの共和党は「小さな政府」の良さを主張し、各州が自分に合う政策をとるべきであると思っています。政府の介入を望まず、企業の利益追求を支援する保守派の党です。(以前のブログに共和党について書きました。)これに対して、民主党は強い連邦政府( = 強い中央政府)の良さを主張し、社会保障や福祉、労働者を支援するイメージがありました。また、共和党の懲罰的な政策ではなく恵まれていない人のための教育や就職トレーニングなど低所得者を支援する党として知られていました。前回のPart 1にもこの点に触れました。 […]
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[…] では、定性的データはどうでしょうか。これも複雑です。多くのトランプ氏の支持者はここThe Japan Lensでずっと前から書いている通り、エリートの構造を壊してほしいとは思っていました。これは、選挙キャンペーン中に多くの支持者がトランプ氏を選ぶ大きな理由にもなっていました。しかし、自分たちに対しても例の「チェーンソー」が使用されるとは思わなかったようです。 […]
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[…] これこそがトランプ氏の強みです。追い詰められたところで戦う意志が湧いてくるタイプです。それに、生まれつきのショーマンで、常にカメラのレンズを意識しています。共和党がトランプ氏に操られ、個人崇拝の党になっています。強いイメージを持つトランプ氏ですが、今度マスク氏のような大金持ちの支持者から献金をもらい、まさに鬼に金棒です。「ほぼトラ」を主張する人たちが急増しました。 […]
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[…] アメリカの共和党は「小さな政府」の良さを主張し、各州が自分に合う政策をとるべきであると思っています。政府の介入を望まず、企業の利益追求を支援する保守派の党です。(以前のブログに共和党について書きました。)これに対して、民主党は強い連邦政府( = 強い中央政府)の良さを主張し、社会保障や福祉、労働者を支援するイメージがありました。また、共和党の懲罰的な政策ではなく恵まれていない人のための教育や就職トレーニングなど低所得者を支援する党として知られていました。前回のPart 1にもこの点に触れました。 […]
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[…] 前回のPart 1には、現在の共和党が変化してきたことについて説明しました。アメリカの保守派は昔と違って、より内向的になっているという話もありました。それから、現在の共和党の一つの大きな特徴は「反エリート」である、ということです。ブルーカラーのアメリカ人は不安感を抱えています。いい仕事が少なくなってきて、男女の役割も不明瞭化し、何よりも次の世代が前の世代より貧しくなる、という現状です。 […]
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