二期目の100日間が経過したばかり米大統領のドナルド・トランプ氏ですが、本人の政策と行動は相変わらず目まぐるしく動いています。前世紀のルーズヴェルト大統領以降、これほど素早くかつ広範囲な動きを示した政権はないと言っても過言ではありません。トランプ氏の政策の大きな目的の一つは「米政府を小さくすることだ」と言われます。

側近の一人、政府効率化省のイローン・マスク氏がチェーンソーで連邦政府の無駄を思い切り「カットする」ことが象徴的でした。ホワイトハウスから「市民に痛みが伴うかもしれないが、これこそが『偉大なアメリカ』への道だ」というようなメッセージが繰り返されています。
トランプ支持者はこのままの調子で続けてほしいかと願っているかどうか不明瞭です。定量的データを見ると「ノー」と答える人は51.8%で、「イエス」の44.2%を上回ります。これは有名な統計学者のネイト・シルバー氏の最近の調査における一つの結論でした。しかし、シルバー氏が調査の結果で指摘したように、複数の世論調査の間にバラツキや方法の違いなどもありますので、数字だけで全体像を把握することは困難です。
無謀なやり方に不満
では、定性的データはどうでしょうか。これも複雑です。多くのトランプ氏の支持者はここThe Japan Lensでずっと前から書いている通り、エリートの構造を壊してほしいとは思っていました。これは、選挙キャンペーン中に多くの支持者がトランプ氏を選ぶ大きな理由にもなっていました。しかし、自分たちに対しても例の「チェーンソー」が使用されるとは思わなかったようです。
例えば、米国公共ラジオ放送のNPRの取材に応じたフランク・デービス氏ですが、メリーランド州の小さな街の市長です。政府の無駄使いを見てきたデービス氏は、基本的にトランプ氏の政策を支持しています。しかし、デービス氏と現地の経済に欠かせない国立消防士学校がとばっちりを受けると困るようです。
実は、学校はすでにとばっちりを食らっています。突然に学校の教育プログラムが「中止」になったとの通知がきて、デービス氏も含めて現地の人がショックを受けました。トランプ政権の政策について「彼らは何がカットされるかあまり気にせずに、とにかくカットしているだけだ」と不満を募らせています。要するに左派的な有権者だけではなく、トランプ氏の支持者も心配し始めています。
トランプ政権の政策について「彼らは何がカットされるかあまり気にせずに、とにかくカットしているだけだ」。
フランク・デービス氏(トランプ大統領の支持者)
保守派の砦と呼ばれる米国防総省にも同じような現象が見られます。例えば左派的な米国際開発庁(USAID)などエリートが好むようなところがカットされたら喜ぶトランプ支持者が大半です。ただ現実は複雑です。米軍の大佐級以上の階級はUSAIDのソフトパワーの価値を認めており、無謀な更迭などに反対する人もいます。しかし、下士官以下のところにトランプ氏の支持者が多く、USAIDは左派の「無駄使い」として槍玉に挙げられています。意見はともかく、チェーンソーがペンタゴンにも向けられています。心配するトランプ氏の支持者が増えています。
こうした現実を見て、野党の民主党のチャンスだと思う人もいます。しかし、民主党は「エリートのためのエリート党」というイメージはなかなか払拭できないものです。左派のポピュリズムのスターとして活動してきたバーニー・サンダーズ上院議員はトランプ支持者の多い地域を遊説して回っているところです。サンダーズ氏の一つのメッセージは「トランプ大統領は憲法を阻んでいる」と、ブルーカラーの有権者にアピールしています。部分的にこのメッセージは浸透しているように見えますが、トランプ氏の支持者を奪えるかまだ分かりません。
「自由貿易」や「同盟重視政策」、「大きな政府」など一括して「エリート連中のためだ」と否定する有権者が多いのです。
本当に切っていいの?
マスク氏はシリコンバレー出身で、彼の信念の一つは「素早く行動し、破壊せよ」(英語でMove fast and break things)です。要するに、昔のやり方に捉われないように、とにかく改革を迅速に行うのが大事だ、という考え方です。また「変更を恐れてはいけない」という精神も込められています。しかし、どこかのベンチャー企業にではなく、膨大な米連邦政府にそれを適用しようとしています。これは従来の米政府のあり方への大きな否定の表れです。「自由貿易」や「同盟重視政策」、「大きな政府」など一括して「エリート連中のためだ」と否定する有権者が多いのです。マスク氏のチェーンソーはこの人たちを喜ばせるためにカットしています。
一方、自分の体もカットしているように見えます。上記のデービス氏はある意味で巻き添え被害であると解釈できます。例えばトランプ氏が好む関税で言えば、その取り組みには米国際貿易局の役割が大きいはずです。
「関税のプロ」が標的になるなんて、… まるで自分の首を絞めているようなものです。
しかし、「ザ・ヒル」の報道によると関税の実施に当たる人たちでさえもクビになっています。他の省庁がトランプ氏が嫌う多様性・公平性・包括性いわゆる「DEI」を実施しているからカットされる、というのはある意味で理にかなっています。左派への攻撃の一部であるからです。しかし、そういう左派的なアジェンダに一切関係がない「関税のプロ」が標的になるなんて、賢明なやり方には見えません。まるで自分の首を絞めているようなものです。
これもトランプ政権の一つの特徴かもしれません。「反知性主義」が右派の有権者に支持され、「やれやれ」という声援を受けて全速で進めています。しかし、自分の支持者や自分の政策を実施しようとする者にも傷をつけてしまう副作用は継続してゆく場合、どうなるでしょうか。トランプ氏の支持率と支持層が変わるかどうか注意深く見守る人は少なくありません。
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写真 1: エミッツバーグ市の市長とトランプ氏の支持者であるフランク・デービス氏(NPR)。
写真 2: チェーンソーを持つイローン・マスク氏(CyprusMail)。
筆者はユウジ・ヨコヤマさんから貴重なフィードバックをいただき、感謝しております。なお、このブログの作成にあたってAIや機械翻訳ソフトなど一切利用していません。


