前回のPart 1には、現在の共和党が変化してきたことについて説明しました。アメリカの保守派は昔と違って、より内向的になっているという話もありました。それから、現在の共和党の一つの大きな特徴は「反エリート」である、ということです。ブルーカラーのアメリカ人は不安感を抱えています。いい仕事が少なくなってきて、男女の役割も不明瞭化し、何よりも次の世代が前の世代より貧しくなる、という現状です。

インフレやホームレスの増加、高騰する医療費など、社会問題も深刻です。「アメリカン・ドリームは幻想だ」と裏切られた気分で、怒りを覚えている人が増えています。

その怒りを巧みにつかんで原動力にしているのはドナルド・トランプ前大統領です。

 なぜこのような状況になったのか、そして、今回の大統領選にどのような影響があるか、一緒にみてみたいと思います。

アメリカ国内・国外の変更は経済によるもの

 昔の共和党は、おおざっぱで言えば、右寄りで、外交政策がタカ派で経済政策が保守的、という特徴がありました。典型的な共和党の象徴として80年代のレーガン大統領が挙げられます。冷戦時代のレーガン氏は開放した市場及び自由貿易によって民主主義が普及し、ソ連の体制より強くなると信じていました。結局1990年頃には、そうなりました。ソ連は米国の経済に勝ることができず、米国との軍拡競争によって体制が破綻しました。アメリカが唯一の超大国になりました。

 アメリカ国内の政策はどうでしたか。共和党の人は、「小さな政府」がいいと主張し、連邦政府の介入や規制が民間部門の成長を妨げると信じていました。所得税を減らすことによって、富が富裕層から貧困層に流れる、いわゆる「trickle-down economics」というレーガン大統領の発想もありました。したがって、彼らの「お金の無駄使いはあってはいけない」との考えにより、1980年から福祉や失業保険など低所得者のためのプログラムが大幅に削減され始めました。戦後時代のアメリカには、企業の利益が上がると労働者の給料も上がりました。しかし、レーガン政権の登場でそれが変わりました。企業の利益はそのまま上がり続いたが、人の給料は下がり始めました。また、価値観に関わるいわゆる「カルチャー戦争、culture wars」は徐々にキリスト教団体によってリードされ始めたのです。ロビイストの活動は活発化しました。

 要するに、レーガン大統領の時期に米国にとって二つの大きな出来事がありました。海外にはソ連の終焉でした。国内には、中産階級の侵食の始まりでした。それに、宗教的なアジェンダも登場しました(例えば、多くのキリスト教徒が反対する人工中絶を無くすための運動など)。

戦後時代の強いアメリカがどんどん弱体化

 なお、2000年に息子のブッシュ大統領が当選しました。彼もレーガン型の政治を実施しようとしましたが、民営化も一層加速させました。民営化は連邦政府を弱体化させました。それから、企業の税金も減らしましたので高所得者や株主が特に恩恵を受けました。

 約1980〜2008年の間、いくつかの社会的な変更がありました。特に以下のものに焦点を当ててみたいです。

  • 貧富の格差の悪化:企業利益が増えても労働者の賃金は減る一方
  • グローバル化:数多くの工場が海外へ移転(例えばメキシコや中国へ)
  • 移民の増加:特に低所得層の白人から見れば大きな脅威
  • 差別問題の悪化:奴隷制などの遺産が移民社会に悪い影響を
  • キリスト教の価値:組織的な宗教団体が政治家に圧力を
  • 社会的な地位の低下:地位が脅かされているという不安

 それに、初黒人大統領として当選したオバマ氏の登場もありました。それに対して、白人至上主義者の体勢が硬化し、民主党と共和党の分断がますますひどくなりました。

 徐々に(特に約2009年からですが)共和党の支持層が変わってきて、いわゆるポピュリズムの動きが著しくなりました。立場が不安定化した多くの白人は、ウォール街や既得権者、支配層や左派的なエリートなどに対して強い怒りを覚えました。従来の共和党政治家に対しても怒りが強くて、裏切り者として「ライノだ」と批判し始めました。(RINO = Republican in Name Only、要するに「『自分は保守派』とか言うけど、本当はリベラル連中の味方だ」と。)

なぜトランプ氏のメッセージが響く

 多くのエリートはこの問題の深刻さと有権者の怒りを過小評価してしまいました。ヒラリー・クリントンはその一員でした。2015年、トランプ氏を軽んじながら自信満々で選挙日に向かっていました。しかし、トランプ氏は上記に踏まえて、このようなメッセージを繰り返してきました。(なお、正確な引用ではありませんが、このような主旨です。)

1)貧富の格差について

「ウォール街の連中は盛り上がっているが、あなたたちの給料は低いままで。あなたたちはどんなにピンチになってもエリートは気にしない。それに、マスコミもエリートの道具にすぎない。国民の敵だ。

2)グローバル化について

「昔のアメリカは偉大な国だった。何でも作れた国だった。けど、今は我々の工場は海外に行ってしまった。」

3)移民の増加について

「エリートは安い労働がほしいので移民に甘い。だからメキシコとの間に壁を作ればいい。」

4)差別問題の悪化について

「左派やマイノリティの連中はいろいろ『差別だ』とかいうけど、白人のほうが差別を受けていると思う。」

5)キリスト教の価値について

「アメリカはキリスト教の国だ。だから保守派の裁判官を最高裁に入れて人工中絶など憲法違反にさせてやる。」

6)社会的な地位の低下について

「エリートの人はあなたたちの立場はどうでもいいと思っている。ある意味であなたたちはエリートに狙われている。実は私もそうだ。私に対する91件の起訴というのは民主党からの魔女狩りに過ぎない。」

2024年の大統領選の行方

 現時点、共和党の党員集会が続いていてこれによって共和党の候補者を選びます。すでにアイオワ州とニューハンプシャー州での集会が終わり、トランプ氏が地滑り的な大勝利しました。このままの調子なら11月の大統領選で「トランプ対ベイデン」の勝負になりそうです。

 ここで注意していただきたい点があります。刑事事件も含めて裁判になっている起訴が多いトランプ氏が再び大統領になるシナリオはあり得るのか、と聞いている人はいますが、答えは「Yes」です。バイデン氏を熱心に支持している人は少ないのでトランプ氏が勝ってもおかしくないぐらいです。

 また、多くの共和党政治家は本音はトランプ氏のことが好きではないと思っても熱心なトランプ支持者の怒りを買いたくないです。公の場で批判する共和党の人が非常に少ないです。権威主義の雰囲気になっています。

 トランプ氏が勝ったら日本に対する政策はどうなるでしょうか。前回の時、安倍晋三元首相がトランプ氏とうまく関係を作ったのでトランプ氏の反日傾向を和らげることに成功しました。今度、同じような関係が作れる日本人政治家はいなかったらトランプ氏からの取り扱いが荒くなる可能性は高いと言えます。接触を望む政治家はすでに動いていますがうまくいくかどうか不明瞭です。また、中国との落とし所が見つからなかったら地域全体の緊張感が高まるでしょう。日本政府はどう対応するか真剣に考えないといけません。かつての常識が通用しなくなるからです。

 次回、「アメリカの政治:こんにちの民主党」も掲載する予定です。

– – –  

Photo 1: 共和党はもはやレーガンの政党ではない。トランプが支配している。(Wikipedia)

Photo 2: カリフォルニア州南部のサンディエゴ市。建設中の高級マンションの周りにホームレスのテントが多い。(22年2月撮影)

Photo 3: 主流の共和党政治家はトランプの支持者の怒りを恐れている。(CNNジャパン)

 筆者は井口浩輔さんから貴重なフィードバックをいただき、感謝しています。なお、このブログの作成にあたってAIや機械翻訳ソフトなど一切利用していません。

4 responses to “アメリカの政治:こんにちの共和党(2/2)”

  1. […]  以上、現在の共和党のポイントをリストアップしましたが、今度の「アメリカの政治:こんにちの共和党(Part 2)」には、なぜこうなったのか、また大統領選への影響はどうなるか、について議論したいと思います。 […]

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  2. […]  それに加え、トランプ氏の「エスタブリシュメントをぶっ壊してやる」という発言もあります。この発言はエリートに対して悪感情を抱くある種の有権者に支持されていますが、それはあくまで代わりにより良いものが作り出されるというのが前提です。しかし、現在の共和党には虚無主義の一種が蔓延しています。したがって、トランプ政権二期目を特徴づける言葉として、米政府における「カオス」や「統治不全」などが思い浮かびます。アメリカ社会の機能性が落ち、分断がさらに悪化してもおかしくないです。 […]

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  3. […]  それに加え、トランプ氏の「エスタブリシュメントをぶっ壊してやる」という発言もあります。この発言はエリートに対して悪感情を抱くある種の有権者に支持されていますが、それはあくまで代わりにより良いものが作り出されるというのが前提です。しかし、現在の共和党には虚無主義の一種が蔓延しています。したがって、トランプ氏の二期目の特徴づけるものとして、米政府における「カオス」や「統治不全」などが思い浮かびます。アメリカ社会の機能性が落ち、分断がさらに悪化してもおかしくないです。 […]

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  4. […]  以上、現在の共和党のポイントをリストアップしましたが、今度の「アメリカの政治:こんにちの共和党(Part 2)」には、なぜこうなったのか、また大統領選への影響はどうなるか、について議論したいと思います。 […]

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