ジェームズ・カメロン監督の「タイタニック」は1997年に上映され、瞬時に大ヒット作品となりました。狭い甲板を人々が逃げ惑うパニックシーンがじわじわと展開し、巨大な船が沈没していくという恐怖が視聴者の心に刻みつけられました。ちょうど27年後の現在、多くの左派のアメリカ人も同様の不安感・恐怖感を抱いています。先日の選挙で共和党のドナルド・トランプ氏が勝利したのみならず、上下両院の過半数も獲得し、最高裁も保守派に支配されている状況です。新しい共和党の大勝利でした。

 米国がどのように民主主義の航路から徐々に外れていってしまったのか、また日本はトランプ氏の「アメリカ第一主義」についていけるのかについて考察してみたいと思います。 

民主党の敗因とは?

 世界中で最近行われた選挙に目を向けてみると、フランス、イタリア、ドイツなど様々な国の有権者が「現役政権」ではなく、むしろ「ポピュリスト」や「アンチ・エスタブリシュメント」の党を選んでいます。それを受け、米大統領選での民主党敗北もグローバルな動向の一環であるとの解釈もあります。でも、だからといって「これは世界中に起きている現象だ、しょうがない」という甘い結論は許されません。カマラ・ハリス候補の敗退の原因は民主党政策と戦略にあり、大いに反省すべきところです。

「米経済が強い」とよく耳にするのですが、それに対して「ナンセンスだ」と反論する市民が非常に多いです。

 例えば、バイデン大統領が経済刺激策として「より良い再建を」という、インフラに投資する政策を展開しました。実は、多くの低所得者がこういった政策から恩恵を受けたと言われています。しかし、肝心の有権者たちにはその実感がなく功績として認めてもらえなかったです。また、バイデン政権のもとで「米経済は絶好調」などと今でも平気で発言するウォール街の専門家もいます。株式市場が盛り上がっていても、やはりその利益がわずかの富裕層にしかいっていないという印象が強いです。

 つまり、「米経済が強い」とよく耳にするのですが、それに対して「ナンセンスだ」と反論する市民が非常に多いのです。

 「本当の問題はインフレーションだ」と指摘する人もいます。しかし、米経済には構造的な問題があり、そのままにしてしまうと貧富の格差がさらに広がるとの解釈もあります。天才投資家のウォーレン・バフェット氏が言ったように、億万長者が払う税金の割合が秘書より小さいということ自体が、おかしいのです。アメリカの体制は、市民よりも大企業を重視する仕組に見えます。結果、中産階級が減り、医療保険や教育などのコストが高騰し、さらにインフレが追い討ちをかけるというわけです。トランプ氏の「こんな悲惨な状態はグローバルエリート達のせいだ」というメッセージが響くわけです。

トランプ氏の強み

 民主党敗退の原因の一つとして、党のメッセージを有権者に発信するのが下手だということも挙げられます。一方、トランプ陣営の選挙戦におけるメッセージ発信は非常に効果的でした。例えば、先日、大谷翔平選手も出場したワールドシリーズでこのようなCMが流れていました。「アメリカで一生懸命働いているウェイターとウェイトレス達は自分達がもらうチップに税金を払わされているなんて不公平だ。トランプ大統領はエリート達に勝手はさせんぞ!」といったメッセージを流していました。

 それに対し、「そんな単純な解決なんてあるかい?」と突っ込みたい経済学者も出てきて、ハリス氏の経済計画を必死に説明しようとしました。ですが、民主党の代表は政策の細かいところをだらだら説明し、有権者にとってはあまりピンとこない話が多かったです。一般の有権者は、経済政策の専門家ではありません。「チップに課税ゼロ」のほうが簡潔で響きます。

ハリス氏をはじめとする民主党員は、ブルーカラーではなく「エリートの味方だ」というイメージを、最後まで払拭することができず、驚くほどの敗北を喫しました。

 実際には共和党より民主党の政策のほうが労働者を助けている、と主張するポール・クルーグマン氏のような経済学者もいます。にもかかわらず「トランプ氏こそ我々の味方だ」という、リアリティとかけ離れた結果となりました。ハリス氏をはじめとする民主党員は、ブルーカラーではなく「エリートの味方だ」というイメージを、最後まで払拭することができず、驚くほどの敗北を喫してしまいました。

 「タイタニック」のストーリーと同様に、この政治的な「氷山」を避ける方法はなかったか、と現在、民主党員同士で責任をなすりつけあっているところです。「進歩的なアジェンダに十分に集中しなかったからこうなったんだ」と言う者あり、「違う、ブルーカラーの人たちへの配慮が足りなかったからだ」と反論する者ありの状態です。民主党の人気下院議員アレクサンドリア・オカシオ・コルテス氏が自分の支持者に「なぜトランプ氏を選んだの?」と聞いたところ、回答は「トランプ氏が我々労働者階級の苦しみを分かってくれるからだ」と言われたそうです。

 トランプ氏を勝利に導いた要素は多々あり、ここに全部挙げることは不可能です。アメリカの多くの労働者やマイノリティの人達は、白人至上主義者が支持する不動産王のほうが「我々の味方だ」と判断したのです。というわけで、トランプ氏が勝ちました。

トランプ政権と日米同盟関係は、両立できるのか

 そこで、先日からとんでもない閣僚人選が始まりました。未成年者との性行為疑惑のあるマット・ゲイツ氏が司法長官に、麻疹(はしか)が復活する恐れがあるのに「ワクチン接種反対」を唱えるロバート・ケネディ氏が保健福祉省のトップに、などなど、信じがたい人事ばかりです。本来、船長は有能な乗組員を選ぶものであるはずですが、トランプ氏は違うようです。彼にとっての優先事項は「順風満帆」よりも「完全支配」にあるのです。

トランプ政権二期目を特徴づける言葉として、「カオス」や「統治不全」などが思い浮かびます。

 それに加え、トランプ氏の「エスタブリシュメントをぶっ壊してやる」という発言もあります。この発言はエリートに対して悪感情を抱くある種の有権者達に支持されていますが、それはあくまで代わりにより良いものが作り出されるというのが前提です。しかし、現在の共和党には虚無主義の一種が蔓延しています。したがって、トランプ政権二期目を特徴づける言葉として、「カオス」や「統治不全」などが思い浮かびます。アメリカ社会の機能性が落ち、分断がさらに悪化してもおかしくないです。

 ところで、親友の日本はどうでしょう。心配の表情で変なアメリカを見守っているようです。本音として「いい加減にノーマルなアメリカに戻ってほしい」と思う人は大勢いるでしょう。しかし、トランプ氏が船橋(せんきょう)に立っている限りそれは不可能に近いと思われます。これがひょっとして米国のニューノーマルになるかもしれない、ということに気づくべきです。

 そこで、アメリカの状況に牛耳られる日本はいったいどうするか、考えないといけません。例えば、日本の防衛は対外有償軍事援助、いわゆる「FMS」に頼っています。頼っているというよりほぼ依存しています。

 現在のFMS体制を不満に思う人はたくさんいますが、アメリカ第一主義で日本がさらに不利になるとしたらどうでしょうか。もっと平等な同盟関係を望む石破茂首相も数多くの問題に直面するでしょう。トランプ政権が再び関税を課するかもしれません。「思いやり予算を増やせ」と要求してくるかもしれません。トランプ氏が中国の習近平主席との何らかの「ディール」を成立させ、日本が置き去りにされたらどう対応しますか。無謀な紛争に巻き込まれることもあるかもしれません。日本の内閣総理大臣にとって悩ましい問題ばかりです。

 「タイタニック」の最後のところに、船が沈んでしまい、主人公も含め多くの人が亡くなります。「米国はタイタニックじゃないぞ。むしろ、より良い船長のお陰で軌道修正も期待できるんだ!」と熱心に語る共和党員もいます。しかし、トランプ氏が同盟を優先する舵取りはしない可能性も十分あるのです。

 ですので、ルールに基づいた国際秩序のリーダーとして活動する日本ですが、いつか「苦渋の決断」を迫られる日が来るでしょう。その時が来るかもしれないことも見越して、自らの針路を定めてほしいです。

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写真1:日米共同演習の場で両国の国旗を掲揚したところ(2020年筆者撮影)。

写真2:ホワイトハウスの近くでテント生活するホームレス達(2021年筆者撮影)。 

写真3:2021年の日米共同演習のキーンソード

 筆者は小笠原みきさんから貴重なフィードバックをいただき、感謝しております。なお、このブログの作成にあたってはAIや機械翻訳ソフトなどは一切利用しておりません。

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