日本人の観点から見るとアメリカ政治には不思議な要素が多いです。まず、アメリカは日本と違って大統領制を採用しているし、各州はまるで自分の国であるほど強い権限を持っています。選挙のあり方も独特です。例えば、来たる11月の総選挙では「バイデン対トランプ」という大統領選挙になりそうですが、なぜ豊かな政治経験を持つバイデン氏がうそ暴言の連続で波紋を呼びかけるポピュリストに負けてもおかしくないぐらい大変な状況に置かれているのでしょうか。
それだけではなく、トランプ氏は数多くの起訴にも直面しています。憲法の専門家は「憲法には刑務所に拘束されている人が大統領になれないという記載がない」など真顔で議論しているところです。こういう相手なら本来はバイデン氏は簡単に勝てるはずです。だが、アメリカ政治は大いに変わりつつあります。いったいどうやってこのような状況になったのでしょうか。一つ言えるのはバイデン氏の熱心な支持者が少ないということです。それを理解するのにまず民主党の変遷について理解する必要があります。民主党の背景について簡単に説明します。
昔の民主党
アメリカ合衆国は二大政党制を採用しており、右寄りは共和党で左寄りは民主党です。民主党の典型的な大統領として60年代のケネディ大統領やL.B.ジョンソン大統領が挙げられます。この二人の大統領はキング牧師が指揮した黒人の公民権運動を支援したことで知られています。また70年代のカーター政権が労働者や組合の味方として代表していました。要するに、民主党にはマイノリティやブルーカラー、左派的な学生等こういった有権者が多かったです。
しかし、90年代のビル・クリントン大統領の当選によって事情が変わり始めました。民主党は「米企業の足かせになる政策ばかりを掲げている」や「犯罪に甘い」という批判を和らげるため、右寄り政策を部分的に取り入れました。その傾向を続けたのが2000年代後半に当選したオバマ大統領でした。こういう右と左の間の「中央」の部分に入った民主党政策を否定する有権者も出てきています。要するに民主党の主要な柱が変わり、支持層も変わ始めました。
| かつての民主党支持者 | 現在の民主党支持者 |
| ほとんどのアメリカにおける少数民族(有色人種等) | マイノリティの女性(男性→共和党に?) |
| ブルーカラーの労働者 | 縮小してきた労働組合のみ |
| 左派的な若者 | 主に穏健派の若者 |
| 高学歴で左派的な社会人 | 左派的なエリートや郊外の女性 |
上記の民主党支持者のカテゴリを一つ一つみてみましょう。
マイノリティの女性
マイノリティの女性やシングルマザー、女性有識者は今でも民主党の強い支持層です。関心のある項目は医療保険の充実や福祉プログラムの強化、子供の教育などであり、民主党の政策に期待しています。しかし、興味深い現象が起きています。左派的なアジェンダから恩恵を受けるはずのマイノリティの男性は、(特に低学歴の男性ですが)徐々に共和党に、つまりトランプ氏側に移りつつあります。トランプ氏支持層には白人至上主義者が多いことを考慮すると、この傾向は非常に不自然に見えます。例えば、右翼の政治団体プラウド・ボーイズの会長はアフリカ系キューバ人であるエンリケ・タリオでした。一つの解説は、肉体労働の仕事の減少や男女平等の運動などによって多くの男性は男としての誇りや職を失っていると感じています。したがって強い男のイメージを持つトランプ氏の魅力を感じる有色人種の男性などが増えている、という現状です。
縮小してきた労働組合のみ
昔の民主党は労働者の味方として知られました。職場の安全基準と二日間の週末は昔の民主党の実績でした。数多くの労働組合には民主党を選ぶ有権者が多かったです。しかし、企業のロビー活動によって組合が弱くなり、今は昔ほどの強い政治力を持っていません。先日、UAWがバイデン氏を支持すると発表しましたが、あまりビッグニュースにはなりませんでした。むしろ、相乗りのウーバーや出前のドアダッシュなどで働かざるを得ないフリーターが組合のメンバーよりはるかに多いです。

これがアメリカの「強い労働市場」の真相です。確かに、求人が多いですが、仕事の質や待遇が悪いのです。ボロ車でウーバーとウーバーイーツなど複数のアプリで必死に稼ごうとする人が非常に多くなりました。
こういうアメリカ人の収入はインフレと歩調を合わせて上がっているわけでもないので、政治力はありません。
本来、民主党はそういう人たちを代表して味方にするはずですが、党内の関係者が団結できず、まとまりにくいです。最近、スタバなどで組合の運動がみられていますが、今でも権力や政治力は企業側にあります。結果として従来の民主党の支持者であるはずのこういう労働者たちはエリートに放置されていると感じ、トランプ氏を支持する人たちすら出てきています。こういう人たちのニーズに応えず、古いパラダイムで動いている民主党はある意味で自分の首を絞めているのです。
主に穏健派の若者
さて、若者はどうでしょう?視野の広いアメリカ人の若者はリベラルになりがちです。文化や人種の多様性がいいと思い、包括的な社会を作りたい理想主義者が多いのです。こういう人たちは今でも民主党を支えています。しかし、キーワードは「穏健派」です。2008年のオバマ氏を支えていた若者がこのカテゴリーに入ります。しかし、極左の進歩主義者はバイデン氏の政策に強い不満を抱いています。これはTikTokやインスタグラムの世代です。民主党のヒーローであるはずのオバマ氏にでさえ批判してしまう若者です。社会的公正や気候変動、学生ローンの改革などの対策を重視する若者たちですが、主流派に強い怒りを覚えています。2015年の選挙運動の時にバーニー・サンダーズ上院議員を支持した人たちです。主流の中年層以上の民主党から見れば、極左のスペクトラムに入っていると思っています。もしそうだとしても民主党が何かの形で支持者を説得できないことは古いパラダイムの失敗です。
左派的なエリートや郊外の女性
ある程度生活が安定している左派的な有権者は今でも民主党を支持しています。それに、最近女性の権利が極右によって攻撃されていると感じる女性もそうです。共和党が極右のキリスト教徒に応えて人工中絶の権利に関する最高裁判決を覆したことが代表的なエピソードの一つです。その意味で、この人たちは民主党に熱心に支持しているというよりも、トランプ氏に対する嫌悪感のほうが強いかもしれません。
次回、「アメリカの政治:こんにちの民主党(Part 2)」も掲載する予定です。民主党の支持層の変遷と誤った政策の方向で、バイデン大統領がピンチになっています。なぜそうなっているか一緒にみてみたいと思います。
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Photo 1: 民主党の象徴である「ロバ」。
Photo 2: ストに参加するウーバー運転手たち(Reuters)。
筆者は井口浩輔さんとキャシー橘谷さんから貴重なフィードバックをいただき、感謝しています。なお、このブログの作成にあたってAIや機械翻訳ソフトなど一切利用していません。




3 responses to “アメリカの政治:こんにちの民主党(1/2)”
[…] 次回、「アメリカの政治:こんにちの民主党」も掲載する予定です。 […]
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[…] アメリカの共和党は「小さな政府」の良さを主張し、各州が自分に合う政策をとるべきであると思っています。政府の介入を望まず、企業の利益追求を支援する保守派の党です。(以前のブログに共和党について書きました。)これに対して、民主党は強い連邦政府( = 強い中央政府)の良さを主張し、社会保障や福祉、労働者を支援するイメージがありました。また、共和党の懲罰的な政策ではなく恵まれていない人のための教育や就職トレーニングなど低所得者を支援する党として知られていました。前回のPart 1にもこの点に触れました。 […]
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[…] 次回、「アメリカの政治:こんにちの民主党」も掲載する予定です。 […]
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