バイデン政権のキーパーソンの一人は国家安全保障問題を担当するジェイク・サリバン補佐官です。最近、ポリティコという米政治雑誌がサリバン氏についての本をレビューしました。アレクサンダー・ウォード氏の「国際主義者:トランプの後、米外交政策を回復させるための戦い」(「The Internationalists: The fight to restore American foreign policy after Trump」)です。ポリティコは普段米国内政治に集中する傾向がありますが、この記事は外交のビジョンを描く人に焦点を当てました。洞察力のある内容で、バイデン政権の外交方針を理解するためにいくつかの大事なヒントが入っています。

記事の要点

 まず、レビューの見出しは面白いです。「ジェイク・サリバンの革命:グローバル化と自由市場の時代は過ぎた。これから新しい『バイデン主義』が台頭する」という題名です。概要は下記の通りです。

 民主党の外交政策の一つの大事な柱は自由貿易というものがありました。レビューにあるように「株式市場が上昇すると米国全市民の状況もよくなる」という信念がありました。ずっと昔からそう信じてきた民主党員が主流でしたし、サリバン氏もその一員でした。

 なぜかというと、自由貿易や資本主義というのはアメリカ型の民主主義の基盤であったからです。しかし、ポピュリズムの台頭とトランプ前大統領を支持するアメリカ人の増加などを見たサリバン氏は、その信念を疑い始めました。要するに、サリバン氏は「なぜポピュリズムがこのアメリカに根付いたのか」、自分に問いかけたのです。

 アメリカにおけるポピュリズムは貧富の格差、不法入国者の急増、犯罪の増加、住宅価格や家賃の高騰、工場の閉鎖、等の問題に原因があると指摘されます。2021年1月6日に起きたトランプ氏の支持者による米議会への襲撃も政府に対する強い不信感と怒りの表れだ、とサリバン氏は見るようになったそうです。

 サリバン氏は今までの常識を考え直し、方針を変える必要があると痛感したようです。アメリカのリーダーたちはあまりにも海外への取り組みに集中してしまい、国内の状況に怠ってしまったと反省しました。これからの米外交は、株主やエリートのためではなく、一般市民のためであるべきだ、と考え始めました。

 そこで、サリバン氏はリベラル系の有名なシンクタンクであるブルッキングズ研究所でこの新しい方針を発表することにしました。「変わるグローバル経済によって多くのブルーカラーのアメリカ人と彼らのコミュニティーが放置されてしまった」と。だからトランプ前大統領の「アメリカ第一」のメッセージが響くんだ、と。アメリカの一般の市民のニーズから見た外交政策が必要だ、とサリバン氏はブルッキングズで語りました。おそらく米国における政治的な分断をこれで治そうとしたのです。

 こういったエリート向きの演説はワシントンにはよくありがちです。しかし、サリバン氏の取り組みは政策発表で終わったわけではありません。実はバイデン政権の発足から実際の外交政策にも見られています。例えば:

  1. もはや関連性のない地域でリソースを費やすことが許されない。よって、アフガニスタンから撤退する。
  2. 勝てない紛争に巻き込まれない。したがって、ウクライナ戦争で直接に介入することは絶対あってはいけない。
  3. 米経済が外国に搾取されてはいけない。よって、(トランプ政権から引き継いだ)中国への強硬姿勢を続ける。
  4. 自由貿易という概念は多くのアメリカ人に好まれない。だからTPPに入ることはあり得ない。

 …など、数多くの政策があります。どれがサリバン氏のインプットによって形成されたか不明瞭です。しかし、本人の信念に沿った形でこういった政策は全て「米国内の状況をよくするため」という観点から見ているようです。ここで大事なポイントは部分的にトランプ氏が掲げる「アメリカ第一」に似ているところもあります。要するに、サリバン氏が描く「新しいバイデン主義」にはトランプ氏の思想も部分的に入っている、ということです。

果たしてうまくいっているのか

 上記の内容を見る限り、優秀なサリバン氏という若手の補佐官は非常に強い影響力を持っているように見えます。しかし、アメリカでの分断という問題の核心に突き止める方法としてこれでいいのか、疑問に思う人が多いです。例えば、元大統領候補と現役の上院議員のバーニー・サンダーズ氏です。サンダーズ氏は自分の民主党の主流派のバイデン氏の政策を批判することで知られています。先に列挙した問題(貧富の格差、不法入国者の急増、犯罪の増加、住宅価格や家賃の高騰、工場の閉鎖、等)の原因は経済の不平等にあると主張します。

 サンダーズ氏いわく、例えば「アメリカの求人市場が強い」とよく言われますが、恩恵を受けるのが労働者ではなく企業側だと反論します。確かに、最近いろいろな業界での賃上げが注目されていますが、インフレに比べるととてもやりくりできるような状況ではありません。

 一言で言うことと、多くのアメリカ人はピンチです。雇用が多いと言われてもまさに「質より量」という問題で、貧富の格差がむしろ悪化しているように見えます。サンダーズ氏が言うように「アメリカの富の3分の1は人口のわずかの1%である大金持ちの手にある、これはおかしい」というメッセージは多くのアメリカ人が賛成しています。しかし、サンダーズ氏は外交政策の経験が浅いし、「左翼だ」というイメージもあるので彼が言うことは非現実的だと思う人もいます。

 が、少なくとも貧富の格差によってアメリカが弱体化しているという指摘は否定できません。アメリカ人の価値観が違うのに、米社会は弱肉強食のようなものになっています。

 それに、白人が少数派の人種の人に置き換えられる、と恐れるトランプ支持者も多いです。結果として多くの低所得層の白人は中南米からの不法入国者を嫌い、差別的な言動も増えています。これは弱肉強食の社会で暮らす人の「恐怖の反応」で、ブルーカラーの人が「ホームレスになるかも」という心配があっても当然です。ポピュリズムの一つの原因はここにもあるかもしれません。

突っ込むところが違う

 新しいバイデン主義の原則は海外でのリソースの無駄使いを避けたく、国内の使用に回したいということだそうです。理論上、理にかなっています。しかし、無謀なアフガニスタン撤退やTPPの否定などで米国内状況が改善したと言えないでしょう。それに、もう一つあります。イスラエルへの無条件の支援です。いかに時代遅れであるか、バイデン氏の側近は気づくのが遅過ぎます。こういう誤った政策で国をよくしたと言えません。むしろアメリカの立場をより弱くしました。

 アメリカの問題の核心に突き止めたかったら、まず難しい質問に答える必要があります。例えば、「なぜ貧富の格差がこんなにひどくなったのか」。原因はアメリカ型の資本主義にあるのであればそれを正す、という覚悟が必要です。大手企業の株式の買い戻しの禁止や譲渡所得の適切の税、税制度の抜け穴を塞ぐことなど、色々な対策が考えられます。そこで、中産階級がまだ健全の日本の政策を見習ってもいい部分はあると思われます。つまり、もう機能しない部分を迷わず切り捨てるのです。そうしない限り「新しいバイデン主義」や「サリバンの革命」というものはただ単に「トランプ氏の支持者の機嫌をとる」という政策になってしまいそうです。うまくいくか、大いに疑問があります。

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Photo 1: サリバン補佐官は国家安全保障問題を担当する(Wikipedia)。

Photo 2: 右にいるのは米国務省にいるサリバン補佐官(Politico)。

Photo 3: サンダーズ上院議員のメッセージは多くの若者に響いた(Brookings)。 

筆者は井口浩輔さんから貴重なフィードバックをいただき、感謝しています。なお、このブログの作成にあたってAIや機械翻訳ソフトなど一切利用していません。

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