米大統領との初首脳会談ということで、石破茂首相にとってはいちかばちかの勝負でした。しかも相手は気まぐれなトランプ大統領で、官邸と外務省高官は徹底的な準備が必要と決断しました。役割練習などで数十時間もかけ、あらゆるシナリオを想定して周到に準備させました。そして2月7日が本番の日で、石破首相はトランプ氏の機嫌をとるために美辞麗句で称賛し、アメリカへの一兆ドルの投資までも約束しました。これでトランプ氏が満足したという感触を得ました。ひとまず成功と胸をなでおろし、少し安心した気分で日本への帰途につきました。

首脳会談のムードと一致しない発言

 それなのに、3月4日に突然に米国防総省のエルブリッジ・コルビー氏が日本は防衛費をGDPの3%まで増額すべきだと発言しました。コルビー氏は「日本は非常に裕福だ。なぜ彼らは脅威に見合ったレベルの支出をしないのか」と疑問を提起し、日本の防衛関係者を唖然させました。また、駐日米国大使に指名されたジョージ・グラス氏も3月13日に在日米軍基地に関して発言しました。日本は駐留費の割合をもっと負担すべきだと述べました。もっと厄介なのは関税の問題です。日本の外交官は必死に舞台裏で米側と交渉していますが、うまくいく保証はありません。4月になったら日本からの輸出品に関税を課される可能性は十分あります。

 この状況について日本側が納得できないポイントがいくつかあります。「日本は非常に裕福だ」という主張が防衛費の増額の理由として挙げられました。ここで彼の日本についての知識が少し不足しているように見えます。日本型資本主義では中産階級が重視され、アメリカほど貧富の格差がひどくなっていない、だからといって「裕福だ」ということにはならないでしょう。

(防衛費を)ただ単に「3%」に増やすばいいというのは短絡的すぎます。

 また、GDP比2%までの増額だけでは1300億円程度を使いきれなかったこともあったので、ただ単に「3%」に増やすばいいというのは短絡的すぎます。日米同盟と抑止力を強くするには後方支援の改善や弾薬庫の強化、指揮系統の連携などが必要です。それなのに最近、米国防総省は在日米軍格上げに向けた取り組みを一旦中止することを検討し始めているようです。これで米政府はどのようなメッセージを送ろうとしているのでしょうか。「我々は東アジアからちょっと退くけど、米国製装備品はたくさん買ってね」ということでしょうか。日本政府は納得しないでしょう。

 グラス氏の発言も問題視されています。駐留費を「日本はもっと払うべきだ」と言いましたが、日本はアメリカの他の同盟国よりすでに多く払っていることが事実です。トランプ氏も先日「米日安保条約は不思議なものだ」などと言いましたので日本はさらに緊張しています。「みかじめ料じゃない」と言われても嫌な気分になるでしょう。

「友情」より「切り札」

 この状況を見て「ワシントンではいったい何が起きているのか」と戸惑う人は多いはずです。カオスに見えます。しかし上記の問題には共通点があります。それは、日米同盟の「友情」はかつてほど重視されていないということです。トランプ氏が次に何をするか予測しにくいです。しかし、昨今のトランプ政権の戦術を理解するために大事なヒントがあります。それは1987年に出版した「トランプ自伝、アメリカを変える男」という本で、トランプ氏はこう書いています:

 私のディールのやり方は割とシンプルで分かりやすい。要求を非常に高く設定してから、欲しいものが入手できるまで思い切り押し続けることだ。1

 次の段落に「妥協せざるを得ないケースもあるが、ほとんどの場合は私が望む通りにいく」というようなことも書いています。要するに、交渉相手に強引に求め続けることによって欲しいものが得られる、ということです。

 切り札があれば要求できるのです。これこそがトランプ流のディール方法です。

 2月28日にホワイトハウスの執務室でこの考え方が一層明らかになりました。トランプ氏がウクライナのゼレンスキー大統領に「お前には切り札がない」と言い放ったのです。これは戦後時代のアメリカがいかに変わったかを示すエピソードの一つでした。トランプ政権の下で米国と取引するなら今までの友情の絆よりも「切り札」の方が大事だということです。欧州諸国はその現実に目覚めています。日本はどうでしょうか。

 幸いに日本は結構有利なカードを持っています。例えば、日本の企業は大勢のアメリカ人を雇っています。米国の南部に足を運ぶと自動車メーカーの工場が現地のコミュニティに溶け込んでいることが分かります。日本の優秀な人材は米側のカウンタパートと協力し科学や金融、宇宙技術など様々な分野で貢献しています。

在日米軍という「奥の手」は「あってもいい」というようなものではなくて、「なくては絶対勝てない」ものです。

 しかし、一番強いカードは安全保障にあるかもしれません。トランプ氏は在日米軍のことを「コスト」として認識しています。一方、中国の玄関に在日米軍があるということはトランプ氏にとって大事な切り札でもあります。これから中国の習近平主席とグレートゲームで対決する見通しです。在日米軍という「奥の手」は「あってもいい」というようなものではなくて、「なくては絶対勝てない」ものです。日本の外交官は過去の友情よりもこの事実を強調すべきだと思われます。

 今までの友情を切り捨てる必要はないでしょう。また、在日米軍の存在は米国にとって「コスト」ではなく、「強い切り札」だと強く出過ぎてしまうことも避けたいです。とにかく日米同盟は嵐に巻き込まれています。しばらくの間は、カードゲームでうまくプレイできる腕が求められています。

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1Trump, Donald J. 1987. Trump: The Art of the Deal. Ballantine Books, New York. p. 45: “My style of deal-making is quite simple and straightforward. I aim very high, and then I just keep pushing and pushing and pushing to get what I’m after.”

写真 1: 握手する石破首相とトランプ大統領(CFR Blog)。

写真 2: トランプ氏の本「トランプ自伝、アメリカを変える男」の表紙。

 筆者はユウジ・ヨコヤマさんから貴重なフィードバックをいただき、感謝しております。なお、このブログの作成にあたってAIや機械翻訳ソフトなど一切利用していません。

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