これはPart 1のインタビューの続きです。ビデオと原稿、両方あります。

(カファト): ご説明の中には、いくつかのキーワードが出ました、「内向き」や「関税」などが挙げられます。そこで、日米関係ですが、トランプ大統領と石破総理大臣との関係はどのようなものになりそうですか。

(フクシマ): これは予測しにくいです。しかし、全体の今の日米関係を見ると、特に大きな問題があるわけでもありません。むしろ今の日米関係は、特に中国や北朝鮮問題など安全保障面で日米がお互いに協力する必要があります。あと経済面でも、経済安全保障のことなどを考えると、半導体や通信、あるいは先端技術の分野で日米間の協力が必要だとされています。同様に、台湾と韓国とも、特に半導体分野では協力する、という体制なのです。

 今、日米間で何か未処理案件というようなものは、日本側から見ると、日本製鉄のU.S.スチールの買収という案件ありますが、それぐらいでしょう。

トランプ大統領が、トランプ政権誕生後すぐ、日米関係で何か大きい問題を取り上げるとは思っていません。

グレン・S・フクシマ氏

 二期目のトランプ政権は国内重視だと思いますので、国内のことが優先課題になるでしょう。おそらく実行する可能性が高いの、例えば、不法移民の強制送還や国境管理、あるいは個人の減税、企業の減税、規制撤廃、気候変動に対するバイデン政権がしようとしたことを覆すことなどが挙げられます。

 外交政策に関しては、ウクライナ問題とイスラエル問題に加えて、中国や北朝鮮との問題もあり、外交上の問題が多いです。したがって、トランプ大統領が、トランプ政権誕生後すぐ、日米関係で何か大きい問題を取り上げるとは思っていません。

 もう一つ言えるのは、アメリカの国務省や国家安全保障委員会(NSC)など省庁のトップになる人たちは対中強硬派が多いです。国務長官になる見通しのマルコ・ルビオ上院議員もそうです。そういう意味では日米は協力体制が主で、日米間の大きい問題が出てくることはあまりないと私は見ています。むしろ協力することが多いでしょう。

(カファト): トランプ氏がディール(取引)を好むことで知られていますが、何かのディール成立で対中の強硬姿勢が和らげて、米中関係が日本がおそれるG2になり、日本が置き去りになってしまうことはあり得ると思いますか。

(フクシマ): 可能性はゼロとは言えませんが、高くないと思います。トランプ大統領は、個人との関係を重視する、あるいはそのディールを重視するということは事実です。ただ今アメリカでは、民主党でも共和党でも中国というのはアメリカにとって最大の競争相手だという共通認識です。共和党の中には、中国に対してディーリスキング(de-risking、「リスクを無くす」という意味)ではなく、ディカップリング(de-coupling、「経済分断」)するべきだと主張している人がいます。完全に「中国との関係は経済面では切るべきだ」というふうに、極端な意見の人もいるくらいです。

トランプ大統領が一人で習近平主席と何かディールを結ぼうとしても、これは簡単に実施することができないと思います。

グレン・S・フクシマ氏

 ですので、トランプ大統領が一人で習近平主席と何かディールを結ぼうとしても、これは簡単に実施することができないと思います。トランプ氏がある程度は何らかのディールで少し中国に対して融和的な方向にいく可能性は否定できませんが、今のワシントンの政治環境から見ると全ての米中間の緊張を払拭することは難しいと思います。

 私は2012年にワシントンD.C.に戻りました。当時は経済学者のフレッド・バーグステン氏などが「中国とアメリカの間はG2を結ぶべきだ」と強く推薦していました。しかし、それはもうほぼ不可能な状況になっています。2012年に習近平体制になる前は、中国がより開放的になるとみんな期待していましたが、習近平体制になってからは、逆行しています。それまでは、アメリカでは中国が貿易や投資、人文交流、WTOへの加盟などによって資本主義的なもっと開かれた経済と政治に移行するはずだと思う人が多かったのです。特に民主党ではそういう期待があり、共和党でもかなりそういう期待がありました。オバマ政権二期目になってから「明らかにそうではない」と明確になりました。

 今は中国に対して厳しい環境ですので、トランプ大統領自身が一人で何かそれを変えようとしても、限界があると思います。

(カファト): なるほど。しかし、トランプ氏は日米関係が非常に貴重なものだと思っていない、と指摘する人もいます。例えば、地位協定ですが、日本はドイツや韓国など他国よりはるかに多くの米軍基地費用を担っています。それなのに過去にもトランプ氏が「日本政府はもっと払うべきだ」など発言することもありました。したがって、トランプ氏が習近平主席と何かのディールを成立し、その時点で日本の重要度が落ちると想像しやすいです。そこで、トランプ氏が日本政府に対して「思いやり予算をもっと払いなさい」と再び要求してくるかもしれません。日本はどう対応すると思いますか。そしてどう対応すべきですか。

(フクシマ): あの地位協定というのは、駐留費の負担と別問題であると思います。総理大臣になる前には、石破茂氏は「地位協定を改定すべきだ」と総裁選のときに繰り返し、主張していましたが、しかし、総理大臣になってからはそういう発言はありません。地位協定の改定は、法律上の複雑な課題があるので、簡単ではありません。例えば、米軍の犯罪など、どう処理するべきかを巡って日本側には、過去からかなり不満があります。特に沖縄では様々な事件が起こるので「地位協定を改定すべきだ」と主張しています。

 非常に複雑な問題です。日本側が改定を要求してもアメリカ側は簡単には応じないと思います。応じた場合でも、アメリカ側も不満があるので、色々な要求が出てくると思います。一方的に日本側の不満をアメリカ側が受け止めて、それを解決するということにはならず、米側からも問題提起があって、困難な交渉になると思います。

 したがって、日本側が地位協定の交渉で要求するのであれば、複雑な問題が出てくる可能性を想定する必要があります。あまり安易にこの問題を取り上げることは、得策ではないと思われます。

 そして、それとは別に、駐留費の問題があります。日本で「思いやり予算」という言葉がよく使われます。私の知る限り、1978年に金丸信が防衛長官のとき初めて使った言葉です。よくマスコミではこの言葉が使われるわけですが、多くのアメリカ人が抵抗感があると思います。なぜかというと、その「思いやり予算」の語源は、当時1978年の時点では、「経済的にアメリカが困っているから日本が負担してあげる」というニュアンスで、日本側が「アメリカのためにしてあげている」という響きがあるからです。

 アメリカのアジア戦略、安全保障の戦略の一環として、日本に5万人ほど兵士を駐留しています。しかし、日本を守るための駐留でもあることを忘れてはいけません。

アメリカ人がこの(「思いやり予算」という)言葉の背景などを調べたら喜ぶことはないと思います。 …認識のギャップがあるでしょう。

グレン・S・フクシマ氏

 ですので、アメリカから見ると戦争が勃発した時、米兵が日本を守るために命を落とすので、逆にアメリカが「日本のためにやってあげている」と見てるアメリカ人の方が多いと思います。なお、日本側が使う「思いやり予算」という言葉の語源や意味、響きなど理解しているアメリカ人はほとんどいないと思いますが、もしアメリカ人がこの言葉の背景などを調べたら喜ぶことはないと思います。その認識のギャップがあるでしょう。

 安保条約があるので在日米軍には日本を防衛する義務があります。日本人がその言葉を使うと、深く考えて使うことはないかもしれませんが、その言葉の本当の意味から言うと、これはアメリカには金銭的な余裕がないから、「日本が負担してあげますよ」という「アメリカのためにしているよ」という文脈が言葉の中に入っていると思います。これはお互いの認識のギャップを象徴している言葉である、というふうに私は個人的に見ています。

 では、駐留費の中身を考えましょう。韓国とアメリカが予算の交渉をつい数週間前に終えたのです。バイデン陣営としては、もしトランプ政権になってしまったら韓国に相当負担を要求するではないかと懸念し、「早いうちに交渉を決着しましょう」、ということで決着したと見られています。トランプ前大統領の基本的な世界観というのは、アメリカがあまりにも同盟国のための負担している、と思っています。NATOでも韓国でも日本でも自国の防衛は「自国でやってもらいたい」というのは彼の基本的な考えです。駐留費の予算を韓国に対しても日本に対しても「もっと増やしてもらいたい」、ということを言い出す可能性はあります。ただ、優先順位から考えて、他の外交課題が山積しえちるので、すぐ駐留費増額を言い出すとは思いません。

日本が「5年以内にGDPの2%まで防衛費を増大する」と公言したことに対しては、トランプ陣営は歓迎しているはずです。

グレン・S・フクシマ氏

 あともう一つは、日本が最近の自民党政権の下で防衛費をかなりの増額しています。一期目のとき、トランプ大統領はNATOに対してある意味の脅かしをして、「NATO諸国が防衛費をGDPの2%まで上げなければアメリカは脱退する」という圧力をかけました。それによってヨーロッパの多くの国が前より予算を増大することにしました。日本が「5年以内にGDPの2%まで防衛費を増大する」と公言したことに対しては、トランプ陣営は歓迎しているはずです。しかし、その額で満足するかどうか、現時点では分かりません。場合によっては「もっと出してもらいたい」ということを言ってくる可能性は否定できないと思います。

(カファト): 2025年における日米関係あるいは世界情勢で特にどのような節目や展開に注目すべきでしょうか。

(フクシマ): 不確定要因がたくさんあるので、予測しにくいと思います。紛争で言うと、ウクライナ問題やイスラエル対ハマス、へズボラなどの中東問題、あとシリア情勢があります。そして北朝鮮に関しては、トランプ陣営は首脳会談を水面下で企画しているとの報道があります。中国もアメリカから見て、最大の競争相手ですので、トランプ政権発足からどう対応するか世界中が注目しています。外交面ではこのような課題があります。

 アメリカの内政ですが、国境管理や不法移民対策、経済などが焦点になるでしょう。特に大幅な個人税、法人税の削減をすると思います。加えて、規制の撤廃、例えば独禁法の緩和も考えられます。そして、バイデン政権のときのインフレ抑制法案(IRA)は、中でも気候変動対策がかなり盛り込まれていますが、トランプ陣営はそういうものを削除するでしょう。パリ協定から離脱する可能性も大きいです。

アメリカは日本を一番信頼できるアジアの同盟国と評価していると思います。

グレン・S・フクシマ氏

 あと、イラン問題も大きいです。中国と同様、トランプ陣営は非常にイランに対して厳しい姿勢を持っている人たちが閣僚などに入る見通しです。トランプ氏は、内向きでアメリカ国内重視傾向が強いです。しかし、実際問題としてシリアなどの外国の混乱や紛争は現実に存在します。したがって、外交問題に関与したくないと思っても、アメリカが関与せざるを得ないことになる場合も思います。

 課題や紛争が世界中にあまりにもあるので、2025年がどうなるか予測をするのは非常に難しいです。要するにアメリカが決められない、影響できない要因が数多くあるので、そういう意味では今予測できません。

 とはいっても、その中でもやはりアメリカから見ると、アジアにおけるもっとも重要な同盟国というのは、日本です。最近は韓国も経済面でも安全保障面でも重要性は増していますが、直近では韓国の国内政治が不安定になっています。日本も国内情勢の色々な課題に直面していますが、政治的、社会的に安定しているので、アメリカは日本を一番信頼できるアジアの同盟国と評価していると思います。その分、アメリカは日本を重要視している思います。

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Photo 1: グレン・S・フクシマ氏(Kyodo News)。

Photo 2: The Japan Lensのインタビューに応じるグレン・S・フクシマ氏(24年12月)。

筆者はグレン・S・フクシマ先生に深く感謝しております。先生のプロフィルと功績などの詳細はこのWikipediaのリンクにあります。

なお、このブログの作成にあたってAIや機械翻訳ソフトなど一切利用していません。

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