前回のPart 1のインタビューに峯村先生がパートナー国との連携が重要であると説明していました。その話の続きは下記にあります。(日本語インタビューのビデオもあります↓。)

24年6月13日に録画した先生とのインタビューのPart 1とPart 2。インタビューのPart 2は26:24〜58:15までです。

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(カファト): 先の「白黒」しか見えない米軍の関係者がグレーゾーンの対策に苦しんでいるという話があったが、フィリピンのようなパートナー国と手を組むと、抑止力が期待できるということですよね。

(峯村): その通りです。さき、米軍を批判しているに聞こえたかもしれないけど、実は自衛隊も一緒です。私は自衛隊でよく講演することがありますけど、自衛隊も特に幹部がこの「ミリタリーシナリオ」がどうしても好きなんですよね。専門だからそれをやるんですけれども、やはりそれだけを考えるのは適切ではありません。日本でメインシナリオになっているのは台湾と尖閣諸島の同時侵攻です。自衛隊のOBの人たちがこれを語ってやっています。しかし、私は長年、中国軍の内部文書とか軍事演習を見てきてますが、こうした同時侵攻を想定した記述や演習を見たことがありません。

実はこの(中国からの)侵攻シナリオはアメリカと日本にとって楽なのです。

峯村健司教授

 もちろん考えないといけないが、メインとして考えるのが違うと思います。実はこの侵攻シナリオはアメリカと日本にとって楽なのです。中国が尖閣に攻めてきたら自衛権が行使でき、日米安保条約第5条の適用でアメリカも戦いにコミットできるわけです。

 しかし、中国の台湾併合における戦略目標は何かというと、アメリカを参戦させないことです。そのためには、在日米軍を使わせないようにすればいいのです。そう考えると、尖閣にも攻めることは戦略目標と矛盾しますよね。

 ですので、楽なシナリオばかりを考えるのが駄目です。やっぱりグレーゾーン、中でも薄い色のグレーゾーンシナリオを考える必要があります。私は米国で講演やスピーチをする際に強調していることは、我々の合理性だけで考えるのが駄目だということです。我々にとってリーゾナブル、これがポッシブルなど、これを考えても意味がありません。中国の合理性、中国の考え方、そして習近平の考え方、そう考えないといけない、と。そうじゃないと意味がないんです。

 それについて、先ほど紹介した習近平の戦略ブレーンがどうやるか書いています。しかもその部分が中国で発行が許されなかったことを考えると、ありうるシナリオなのです。

 で、中国の問題に関しては、日本がアメリカより近い、地理的にそうですし、文化的にも近い、共に漢字を使います。日米同盟を深めるために、一つの道具としては「中国研究」があると私は思っています。私たちの研究成果を米側とも共有し、アメリカからのコミットメントを深めてもらう、という作業です。これは本当の意味の同盟の強化だと思っています。  

 台湾有事を研究し始めたのは、2005年からです。おそらく世界で2番目に台湾有事を研究している人間です。1番は習近平さんですね(笑)。できる限りやっぱり発信していこうと思っていますし、研究を進めていこうと思っています。

トランプ氏の方がコントロールしやすいと考えている高官は多いというのは事実だと思います。一方、習近平氏は… バイデン氏の方がいいと考えている…。

峯村健司教授

(カファト): 先ほどの「文藝春秋」の記事に、今年の米大統領選についてコメントなさったと思いますが、トランプ前大統領かバイデン大統領かどちらが勝利しても「台湾の運命はさほど変わらないよ」というようなことでした。

(峯村): アメリカ人はあまり聞きたくないかもしれないが、米国の覇権が揺らいでいます。そのターニングポイントはトランプ大統領の登場だと言う人はいますが、私は違います。「アメリカ第一」の前に、オバマ大統領が2013年に「アメリカは世界の警察官ではないんだ」と発言したことが、米国の覇権が揺らぎのきっかけだと分析しています。その後、ロシアによるクリミア併合が起きたり、南シナ海における人工島の建設が始まったわけです。

 アメリカが唯一の超大国の時に一正面、二正面の戦争を戦える力がありました。でも今の空母などの戦力を見ると、二正面で戦うのが精一杯です。今はロシアのウクライナ侵攻で欧州正面の抑止が崩れました。そしてイスラエル・ハマスの戦争で中東の正面も崩れたのです。もう限界だと思います。実際にこの間ペンタゴンの人と話しているとそれを認める人が多かったです。苦しい状況です、と。

 となってくると、もしこの中国なり台湾の周りでも戦争が起きた場合は米国が抑止するのが難しいです。誰が大統領になっても大きな枠組みは変わらないと思います。今の東アジア周辺の抑止がかなり低下している状況です。こうした状況はしばらくは変わらないだろうというのは私の見立てです。

 ただ、バイデン氏とトランプ氏の唯一の違いは、バイデン氏の方が同盟を重視するというところです。日本とオーストラリア、フィリピンなど同盟を強化すると思います。一方、バイデン氏の安全保障政策がそんなに素晴らしいかというと、私はそう思いません。二つの抑止の正面が崩れているので、外交・安全保障政策は合格だとちょっと言えないのです。

 では、トランプ氏はどうでしょうか。一言でいうと、予測可能性が低い点です。同盟国が動揺しやすいとか、意外な「ディール」を好む人なので、正直に不安要素としてあります。ただトランプ政権の一期目のときに評価したのは「力による平和」です。米軍の再建に力を注いだし、船の数も増やしたということで、軍事力によるこの平和を保ったっていう考えのアプローチ私は正しいと思っています。

(カファト): 習近平主席の観点から見れば米大統領になってほしいのは誰ですか。

(峯村): それは難しいです。よく聞かれます。大きな枠組みでいうと、どちらの大統領でも面倒くさいと思っています。いずれもアメリカとの対決は長く続くでしょう。マイケル・ピルスベリー博士が「100年マラソン」と言ったように、100年かけてもアメリカとガチンコ戦いをするというのは大きく変わらないでしょう。

 じゃ、ベストチョイスかワーストチョイスか分からないけど、とにかく2つに分けて考えます。中国政府の高官から見ればおそらくトランプ氏の方がいいです。なぜかというと、中国が一番怖いのが同盟です。複数の国でかけられることに対してある意味でパラノイアです。非常に恐れている。特にバイデン政権になると、まずはクワッドがあります。それに「オーカス」も新しくつくり、IPEFという枠組みも新設し、複合的な対中同盟が形成されています。中国からすれば非常に嫌です。むしろ、単独でアメリカと交渉すると言ってくるトランプ氏の方が「まぁいいだろう」と思う人も多いでしょう。トランプ氏にはディールを持ち込みやすいからです。

 それを示す話があります。トランプ一期目の時に私がまだワシントンDCの特派員だった時の話です。トランプ氏の初アジア訪問に同行しました。あの時に、明らかに中国からトランプ氏に2000億ドル相当のアメリカの航空機や農作物、エネルギーとか「買ってあげるよ」と言われ、「貿易赤字を減らしてあげるよ」、と打診しました。トランプ氏は喜んでいました。さらに、故宮博物館が貸し切られて、本当に嬉しそうでした。トランプ氏は「2000年の歴史で貸し切ったのは俺だけだったんだ」など自慢していました。そういう意味で、トランプ氏の方がコントロールしやすいと考えている高官は多いというのは事実だと思います。

 一方、習近平氏はどう考えているでしょう。習氏自身はバイデン氏の方がいいと考えている、と私はみています。私は彼のプロファイリングをいろいろしてきたが、彼は一番嫌なのは、意外性です。非常に苦手だと思います。

SNSのLINEとTikTokも究極の投網ですね。薄く情報とってみんなの情報を吸い上げて収集する中国の一番得意なやり方なわけです。

峯村健司教授

 2017年に両首脳の最初の会談がマララーゴで行われ、私も同行しました。そこで習近平氏にとってトラウマになったエピソードがありました。会談は友好的な雰囲気で、「やっぱりトランプさんは大したもんじゃないんだ」と習近平氏が思っていたでしょう。晩餐会でご飯を食べ終わっって、食後のデザートの時にチョコレートケーキが出てきた。その時にトランプさんが一言を言いました。「あ、そうだ。習国家主席、一つ言い忘れたことがあった」と。「先ほどシリアにミサイルをぶっち込んでおいたから」。この時に習近平氏は本当に驚いて言葉を無くしたそうです。10秒間ぐらいフリーズしたそうです。その隣にいた通訳に「今あいつ何言ったんだ」と確認したそうです。一つの大きなトラウマになったと思います。ですので、むしろバイデン氏は長年のコミュニケーションをとっているので、まだバイデンの方が良いというのが私の見立てになります。

 私はわりと珍しい観点から分析しています。記者として見たことを学会に持ってきて、しかも米中双方を見ている人物はそんなにいないと思います。

(カファト): 最近、多くの中国人が海外に引っ越しているという現象・傾向が見られます。日本にも増えている、と。海外の滞在者が増えると、中国政府にとって脅威ですか。長期的な戦略は、この「国を立ち去る」という現象に悪い影響を受けると思いますか。

(峯村): 私の身の回りとかにも、非常に中国のお金持ちの人が、東京のマンションを買ったりなど、非常に増えています。また留学生なんかも「もう帰らない」など。アメリカ人の弁護士の友達もメキシコから入ってくる中国人が多くて、受け入れだけでも大変な量だと言っています。

 最大な理由は、習近平政権の締め付けです。相当厳しいです。言論の自由もなくなってきてますし、思想教育も厳しいというところが嫌だ、と。やっぱり自由がほしいので多くの人が出て行っています。これからも増えていくだろうと思います。

 ただ中国政府が気にしているかと言ったら答えは「ノー」です。14億人の人口なので「出ていけ」ぐらいです。しかし、機密情報を取り扱う人や政府の幹部、国有企業の人などは制約されています。パスポートを取り上げています。中国がうまくコントロールをしています。

(カファト): 中国のスパイ活動はどうですか。アメリカでは、科学者や留学生を疑って「工作員だ」など言う人もいます。玄人のスパイと「なんちゃって」スパイを含めて状況はどうなっていますか。

(峯村): 中国のインテリジェンスは長年研究してきています。私が使っている言葉は「投網方式」です。例えばアメリカの中央情報局などですと非常に優秀な工作員を使って目標定めて情報をゲットする、というやり方です。これに対して、中国のスパイのやり方は第二次世界大戦の前からのやり方ですが、民間人や農村みたいな人、要は素人のスパイを使います。広くて浅い情報を集めさせ、吸い上げる方法です。そこで、優秀な人がその中から重要な情報を選ぶというやり方です。投網のように、海に投げ込んで、引き上げるとほとんど砂ですが、その中には数匹の魚を探し出すやり方です。効率が悪いやり方に見えるかもしれないが、全部合わせて結構すごい情報になります。そこで、アメリカが焦って取り締まりしているのは妥当です。

(カファト): でしたら、日本や台湾で使われるSNSとかLINEのようなアプリも使うでしょう。最近の記事にも「LINEが侵入されている」と書いていました。この脅威に対して対策が取りにくいと思われます。

(峯村): まさにSNSのLINEとTikTokも究極の投網ですね。薄く情報とってみんなの情報を吸い上げて収集する中国の一番得意なやり方なわけです。

 問題はLINEが台湾ですごく普及しています。その台湾で2021年、高官100人ぐらいの情報が漏れる事件がありました。中国が脆弱な韓国のサーバとかにアクセスをして情報を取った可能性があります。私はもう2021年の時から「LINEはもう危険ですよ」と。台湾の人はLINEが日本のアプリと思って安全だと思っています。だが、韓国のアプリで、中国発とみられるハッキングも受けています。防御策として、LINEが韓国側とのデカップリングすることだと思います。ちなみに私はLINEを使っていません。

(カファト): 最後のコメントとして、「これの進捗を見た方がいい」などありますか。

(峯村): 私は「台湾侵攻」という言葉を使わないです。いろいろな「事」が「有る」、有り得るということで「有事」を使っています。しっかりと事実と根拠にも集中することが大事です。今、日本の企業や政府にシナリオ・プラニングが流行っています。誤った情報に基づいたシナリオ・プランニングをやっている会社はけっこういます。逆効果になってしまいます。

 日本にとって尖閣への攻めは最悪のシナリオですが、中国にとっての最悪のシナリオは何ですか。しっかり中国側の視点に立ったファクトとエビデンスを分析していく、という作業をやるべきです。各国の政府なり研究者なりがしっかりと取り組むべきです。

 やらなければ、本当の中国の真相はわからないのです。中国の意図も読めないし、その戦争を防ぐこともできない。私は強く思いますね。

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One response to “峯村健司教授とのインタビュー 台湾有事のシナリオ(2/2)”

  1. […] Japanese only) or the English transcript below, where the discussion picks up where we left off. (Japanese transcript also […]

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