グレン・S・フクシマ先生の経歴は簡単に紹介いたします。アメリカのカリフォルニア出身で、日系三世の方です。学士号はスタンフォード大学で、修士号はハーバード大学で取得しました。留学生として日本の慶応大学に通い、また、フルブライト・フェローとして東京大学でも勉強されました。

 1970年代から日米関係に幅広く、深い形で活躍されています。学生や学者としてだけではなく、弁護士やビジネスマンなど様々な分野で卓越したリーダーとして活躍されてこられました。1990年まで米国通商代表部に勤め、対日・対中の通商政策を担当されました。また、二期在日米国商工会議所(ACCJ)の会頭として選ばれ、アメリカと日本の間の貿易にも深く関わられました。2020年からバイデン大統領に指名され、証券投資者保護公社(SIPC)の副理事長でもいらっしゃいます。日本とアメリカ合衆国で日米関係の最先端の専門家として知られています。

 24年12月23日にThe Japan Lensのインタビューに応じ、深い洞察力を共有していただきました。これはそのインタビューのPart 1です。

– – –

(カファト): 有罪判決など色々な問題に関係しているトランプ前大統領ですが、どうやって選挙で勝利できたか、また、民主党がこの失敗から復活できるかについてのお考えはどうでしょうか。

(フクシマ): 大統領候補が色々な訴訟問題に関係しているにも関わらず再選できることに対して、かなり抵抗を感じるアメリカ人もいます。今のアメリカは分断が激しくて、特に民主党対共和党、都市対地方、あるいは教育レベルの差において激しい分断があります。

 大きく見ると、西海岸、東海岸、大都市の有権者と、地方の中西部、南部の有権者の間にかなりのギャップがあります。しかし、トランプ次期大統領が勝利した最大の要因は、経済なのです。実は、今回の大統領選挙は、民主党のバイデン大統領と共和党のトランプ前大統領も非常に不人気な大統領候補でした。ダブル・ヘイター(double hater、「両方とも嫌い」という意味で)の言葉があるぐらいで、二人どちらにも投票したくない、という状況だったのです。特にバイン大統領は36〜38%の支持率で、他の最近の大統領と比べてかなり支持率が低かったです。

 あともう一つは、有権者に対して「アメリカは今いい方向に向かっているか、悪い方向に向かっているか」と尋ねる世論調査もありました。七割以上が「悪い方向に向かっている」という答えを出したのです。最大の理由はやはり物価高、インフレによって食料品とかガソリンの値段など四年前と比べるともっと高くなっている、ということでした。

トランプ前大統領はこの(国境を強化する)法案が可決してしまうと、選挙で民主党を叩く非難材料がなくなってしまうと懸念し、共和党の議員たちに「これは止めてくれ」と頼み、法案が通りませんでした。

グレン・S・フクシマ氏

 もう一つはの民主党の敗因は、共和党が移民問題をバイデン政権に対しての非難材料に使えたことです。実は、その数ヶ月前に、移民問題を改善するため穏健派の民主党と共和党の上院議員たちが妥協案を作って、それで法案を議会に提出する用意をしました。しかし、トランプ前大統領はこの法案が可決してしまうと、選挙で民主党を叩く非難材料がなくなってしまうと懸念し、共和党の議員たちに「これは止めてくれ」と頼み、法案が通りませんでした。もしその法案が通っていたら国境管理がもっと強化されたはずですが、結局できなかったのです。このようなこともあって、アメリカの有権者の中では、やはり民主党政権は物価高と国境管理が不十分という批判が響きました。

 もう一つの敗因はバイデン大統領が高齢で、強いリーダーとの印象がなかったことです。6月27日のテレビ討論会で、バイデン大統領はもう大統領として務まらない、ということが明確になりましたが、その後三週間半もかかり、7月21日にようやくバイデン大統領が撤退し、カマラ・ハリス副大統領を後任として支持する表明をしました。そのため、彼女はわずか三ヶ月で大統領キャンペーンをせざるを得ない状況に置かれました。本来でしたら一年から二年かけてキャンペーンをしますが、三ヶ月しかなく、十分に戦う時間がありませんでした。

 あと、不人気な大統領の副大統領ですから、なかなかバイデン不大統領とのを距離を置いて新しい政策を打ち出すことも十分できなかったのです。それに、ハリス副大統領は女性で黒人ですので、特に中西部や南部での男性票がそれで少し減った、という見方もあります。

 もしバイデン大統領が就任時に「一期だけで、私は退く」という印象を与えたら、去年の時点で民主党から大統領選挙に出馬したい候補者は十人ぐらいはいたと思います。カルフォルニア州のギャビン・ニューソム知事、2020年の選挙に出馬したピート・ブティジェジュ運輸長官など、非常に人気がある候補者は出馬していたと思います。

 しかし、バイデン大統領が居座ってしまったのでみんなもう諦めてしまい、結局ハリス氏が戦うのに三ヶ月しか与えられなかったのです。しかし、彼女もこの状況下としては、頑張って躍進し、例えばトランプ氏とテレビ討論会では圧倒的に彼女が有利でした。ハリス候補も頑張りましたが、置かれた状況が不利で、負けたのです。

 またこの負けも、実は一般投票では1.5%ぐらいの僅差(49.9%対48.4%)でした。それなのにトランプ陣営は、「これは圧勝した」と言っています。確かに選挙人の数でみれば、明確な勝利ですが、本当の「圧勝」とは言えません。例えば1972年にマクガバン氏がニクソン氏に負けましたが、一州しか取れなかったマクガバン氏に対してニクソン氏は残り州を全て取ったので、本当の意味の「圧勝」でした。トランプ前大統領はハリス副大統領に対してウイスコンシン州で29,000票ぐらいの差で、ネバダ州で確か45,000票ぐらいの差なので、「圧勝した」と言えません。

 そして、「民主党はこの失敗から復活できるか」という質問ですが、まさに今民主党内で、今回の選挙の結果「なぜこういう結果になったか」という原因の分析と、「これからどう民主党を立て直して2026年の中間選挙、2028年大統領選挙に勝てるか」の戦略をちょうど今議論しているところです。来年の2月1日に、民主党全国委員会(DNC)が組織のトップを選ぶことになっています。それも含めて、民主党のこれからの方向を決めなくてはいけません。

民主党としてはもっと原点に戻って、労働者や中間階級、あとは労働組合の支持者たちの党にならないといけない。

グレン・S・フクシマ氏

 その中の議論で指摘されていることは、民主党の立ち位置の変化です。30年ぐらい前までは労働者あるいは中間階級や貧困層の党だったのですが、今はどちらかというと、高学歴者や裕福な人たちの党になっています。特に2016年の選挙以降は、共和党の方がむしろ労働者の党になりました。特に中西部、南部などいわゆる「ラストベルト」の工業地の中では、共和党の方が支持者を獲得しています。これが一つの大きい課題で、民主党としてはもっと原点に戻って、労働者や中間階級、あとは労働組合の支持者たちの党にならないといけない、それにはどうするべきか、という議論がこれから展開されると思います。

(カファト): 先ほど国境管理に関する法案に対してトランプ前大統領がストップをかけたとおっしゃいましたが、これはトランプ氏の影響力を示すエピソードの一つでした。80年代の共和党と現在の共和党は、どう違いますか。

(フクシマ): 私が政府の仕事をしているときは、実は共和党政権の時期でした。当時はまだ冷戦のときで、私が勤めた期間は85年〜90年でした。ちょうど89年にベルリンの壁が崩壊したところでしたので、私の仕事の最後の方に冷戦期が終焉しました。その後、息子のジョージ・ブッシュ政権(2001年〜2009年)までは、共和党の特徴として反共産主義、強い軍事や積極的な外交政策、経済面で自由貿易や市場機能を重視する政策など、こういったものが伝統的な共和党でした。

 特に2016年にトランプ氏が共和党選出の大統領になったことによって共和党が「トランプ党」になってしまったのです。彼が党を乗っ取り、彼のリーダーシップに反対する人たちは、選挙で負けるようになりました。トランプ陣営がそういう人たちを積極的に攻めるようになり、リズ・チェイニ氏がそのいい例です。伝統的な共和党の下院議員でしたが、トランプ氏に抵抗したということで、彼女は予備選でワイオミング州で負けました。チェイニ氏は反トランプ派の政治家で、カマラ・ハリス候補の選挙キャンペーンにも参加して、トランプに反対しました。

 トランプ氏は、前政権期の2016年からずっと共和党のリーダーとしては、かなり貿易面では保護主義的な政策を掲げてきました。経済政策は関税を次から次へと課しました。一方、ロシアに関して、非常に融和的なのです。これは色々な噂があってトランプ前大統領とロシアのプーチン大統領の間、何かの個人的な関係があるようだ、と言われています。本当の理由はよくわかりませんが、本来の共和党でしたらロシアのウクライナ侵略に対して非常に厳しく出てロシアを牽制するはずです。しかし、トランプ氏あるいは彼の周りの人たちは、「ウクライナというのはアメリカは関係ない問題だ」と主張します。「これはロシアに任せたらいい」と。ウクライナのこと、「援助もしなくてもいい」というふうに考えているトランプ陣営の人も結構いるわけです。

トランプ陣営は「シリアは直接アメリカに影響はない」と主張していますが、… 無視することは危険だ。

グレン・S・フクシマ氏

 シリア問題についても同様です。トランプ陣営は「シリアは直接アメリカに影響はない」と主張していますが、ただ、中東情勢の将来のことを考えると、非常に重要な問題で、無視することは危険だと考えています。それに対してもトランプ前大統領は「我々アメリカとは関係ないから関与する必要ない」と表明しています。

 したがって今の共和党は、「孤立主義」までいかなくても内向きで外とあまり関与したくないという傾向が強いです。中国に対しては厳しいですが、中国以外の国に対しては、「あまり関与する必要もない」と考えているようです。

 もう一つの例は、日韓関係です。オバマ政権のときは、オバ大統領が自ら安倍総理とパック大統領の関係改善に努力しました。バイデン政権になってからも、バイデン大統領とユン韓国大統領と岸田総理大臣、この三カ国の関係強化のために努力しました。一方、トランプ前政権の四年間というのは、韓国と日本の関係が悪くなっても「関与するが必要ない」という姿勢でした。

 まとめますと、今の共和党と30年前の共和党とは、安全保障面でも、経済面でも相当違います。共和党内も実は分断があります。トランプ陣営と違って、伝統的な共和党の反共産主義、自由貿易主義的な人たち、まだアメリカがそのリーダーシップを発揮するべきだと見ている共和党の人たちはいます。党内の分断もけっこうあるということです。

– – –

グレン・S・フクシマ先生とのインタビューのPart 2はまもなくアップロードします。

Photo 1: 24年12月31日のグレン・S・フクシマ先生の写真(The Mainichi)。

Photo 2: The Japan Lensのインタビューに応じるグレン・S・フクシマ先生。

このブログの作成にあたってAIや機械翻訳ソフトなど一切利用していません。

One response to “グレン・S・フクシマ氏とのインタビュー 米政治と「トランプ党」になった共和党(1/2)”

Trending